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eps.10 あなたに介護はムリと云われて・・・・施設長 淡路由紀子
2021年8月20日
世話をするのと介護には、大きな隔たりがあると思った。
母が帰宅することなく当施設のショートステイに入ったのは、友人に云われたことがキッカケだった。今の私には母の介護はムリがあり、彼女にとっては施設入居がいいと思う、と。
必死で母の帰宅準備をしていた矢先、ショックな発言であった。不思議に腑に落ちたのも事実である。
アルツハイマー型認知症と診断された時から、ずっと体が引き裂かれるような感覚に陥っている。私の人生の大部分は、母の存在で埋まっていたことがわかった。 親の介護が必要になった時、自分だけで答えや方向を探るのは困難だ。次元の違う問題点が複雑に絡み合い、何をどうすればいいのか、 そして自分は覚悟ができているのか掴めない。
友人の天の声を聞くまで、私は生まれて初めての岐路に立っていた。折しも要介護5の判定をし直された時、暗雲たる思いは頂点に達した。友人はまた、こんなことも云っている。
素人がするのは世話。プロがするのを介護と呼ぶ。
そうか、母に必要なのは世話か介護か、見極める時間を持たなくては。在宅か施設かの選択はさほど問題ではない。現状の把握と理解、そして心の整理だと学んだ。
これを一人でするのではなく、信頼できるプロもしくは経験豊かな人たちに相談して欲しい。微力ながら私自身の話しも役立つことを願っている。
現在母はショートステイを利用しているが、 担当のスタッフたちの動き、判断、アプローチは驚きの連続である。自分は施設長にもかかわらずである。
食の質や空間づくりで、認知症がしばし緩和される事も母を通して体験した。
意思疎通不可と云われた母が、おやつを前に向かい合った入居者に、何度もやさしく声をかけていたり、同室の人に手を振ったりしている。他者との親密性は居を共にする際、介護の過程で見られる重要な要素だ。このような環境を 在宅で与えてあげられるだろうか。到底ムリな ことばかりだ。
在宅でしようとしていたことは、自己満足のための「世話」だったのだろうか。 「介護」はプロの仕事だと思い知った。
近くにいて遠い存在となった母を見る度、まだ複雑な気持ちで乱れるが、新しい出会いが待っている、そう感じるこのごろだ。
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