最近の母は老いに対する抵抗期を超えた感がある。
物忘れや身体の虚弱化に助けられ、ひとつの感情への固執は長続きしなくなった。
以前に比べるとずいぶん穏やかになってきた。どうやらネクストステージに入ったようだ。キレることも少なくなり、こちらの言うことを受け入れてくれることが増えたきた。完全に打ちのめされた日々は遠い日のことに思えるほど、私もまた穏やかになり始めている。「介護認定」を受けることになったのは、このタイミングがあってのことだった。
「生年月日を教えてください」
「今日の日付はわかりますか?」
「ここは、どこですか?」
「一緒におられるこの方はどなたですか?」
「夜は眠れますか?」
「どこで寝ていますか?」
「寝返りはできますか?」
「最近どこかへ出かけられましたか?」
横から私がそれらの質問の補足をするたびに、母はその補足に対してたずねてくる。おっと、まずいことになるかも。予想通り母は混乱しているようで、だんだんと不機嫌になっている。
調査質問の目的を要約すると、物忘れ程度、見当障害のあるなし、意欲低下の度合い、睡眠障害や妄想があるかないか、食事や入浴、介護サービスに対する拒否態度などなど。
これらの質問は認定調査であると認識していれば違和感なく聞けることだが、ふつうの生活を送っている場合はどうだろう。自宅のテーブルでこんな質問を受けることは、人生のなかでまずないだろう。認定質問はそれほど稀なことだ。介護サービスを受ける人々の背景を思うとき、本人または家族の状況を掛け合わせると、既存のパターンに当てはめるのは至難の業だ。